美術館次回予告
2019.3.1 - 12.25
千住博 水の記憶展
-水墨画1500年の源流に挑んだ新作水墨画シリーズ-
“自然の側に身を置く”千住絵画の真骨頂がここにあります。
昨年還暦を迎え、画業の軌跡をたどる自らの個展(高野山金剛峯寺襖絵完成記念『千住博展』)が全国を巡回する中、千住博は“水墨画”という画家として初めてのジャンルとなる新作の制作に挑みました。そうして生まれた20点の水墨画は「水の記憶」と題され、新たなシリーズとして今回が初めてのお披露目となります。
水墨画は中国の唐の時代に生まれ、その後、墨という素材の持つ、にじみやかすれ、濃淡などを活用した表現技法の発達とともに、山水画として展開されてきました。山水画の中で、墨によって表される濃淡の効果は、岩山の塊(かたまり)としての量感や質感、大気の表現などに用いられてきました。千住博は、そうした水墨画の技法の源流に立ち返り、墨という素材に向き合いながら、水の隠喩としての墨の本質を、本シリーズでは大気として表現しています。
千住博の代表作として知られる「ウォーターフォール」は、水の性質を活かし、水で溶いた胡粉を画面に流すことで画面上に滝を再現したものです。こうした、自然の側に身を置く手法こそが千住博が追求し続ける技法であり、それは近年制作された「崖」シリーズにも生かされています。新作「水の記憶」も、大気という水の集合体を墨という素材を通じて、雲として再現したものに他なりません。雲は、大気中の水分が上空でかたまって浮かぶものですが、千住博の雲も画面に墨の流れを凝縮させたものなので、1メートルを超す大判の雲肌麻紙をもってしても、僅か30センチ程度の雲の絵画しか得ることができません。そのため、完成した作品は比較的小ぶりなものになるのです。
本展では、このほかにも、現在全国の美術館を巡回中の「高野山金剛峯寺襖絵完成記念『千住博展』」で紹介している襖絵制作の取材先・空海ゆかりの室戸岬で着想を得た新作「海と空」や、東京藝術大学在学中の初期作品から現在に至る主要作を通じて、千住絵画の魅力とその歴史を振り返ります。